夏御蜜柑は恐ろしい。
悪魔に等しいんじゃないかとさえ、思う。
悪魔が存在することは証明できないが、夏御蜜柑が悪魔のような存在であることは証明することは容易だ。
だから、悪魔を拘束する。
「どうだあ? 夏御蜜柑」
「ううぅぅ・・・う」
夏御蜜柑は喋れない。
嘆きのような慟哭が、騎士の耳元にさえずるその神秘は、どこまでも被虐的で、美しかった。
夏御蜜柑という怪物は、現在何の力もない、敢えて異常性を言うなら双頭の性器を持つだけの人間に、被虐されていた。
人は死ぬ。
が、夏御蜜柑は絶対に死なない。
地球が壊れようが、宇宙が消滅しようが、この世の一切が無に帰そうが、絶対に夏御蜜柑だけは不滅であると、騎士は知っていた。
まさに怪物。
矛盾の塊。
そんな化け物を手玉にとり、拘束している。
夢のようは嗜虐感。
これを射幸と言わずに何を射幸を言おうか。
現在夏御蜜柑は拘束されている。
全身を針につつまれた有名な拷問椅子に座り、両手両足さらに首を革ベルトで拘束し、口には手榴弾を詰め込まれていた。
しかも椅子の針がまるで生き物のようにうねうねと上下に移動し、夏御蜜柑の背部を串刺しにしている。
血が椅子の下に滴り落ちるその様は、遊覧するような快楽と歓喜に満ちていた。
さらに、この椅子は鉄の処女のような構造になっており、蓋がある。
つまり、閉じたら両面から串刺しになるわけだ。
さらに閉じると信管に触れ、手榴弾が爆発。
完全に殺す気満々である。
「う・・・うぅ」
夏御蜜柑が怨嗟的な悲鳴を上げる。
「なんだよ夏御蜜柑? お前この程度じゃ痛くも痒くもねえだろうが。この一週間色んな殺し方をしたが、まだ『爆殺』ってのはやってないからな。楽しみでしょうがねえ」
基本的に鉄の処女は急所をはずしてある。
が、この椅子の蓋に設置された杭のような針は、完全に急所に設置されている。
通常なら爆殺ではなく、刺殺である。
「うぅ・・・ほ、ほふひんはま・・・ゆふひて・・・ふははい」
何か言ってる。
無駄。
無駄。
無駄。
「あ? 何だ? 命乞いか? 夏御蜜柑がか? 馬鹿言うな! お前なんか死んで当然! 今までお前に虐殺された奴等の報いを受け、虐殺されるがいい!!」
騎士は笑いながら吼える。
夏御蜜柑の双眸から涙がしたたり落ちる。
興奮が作用する。
「死んじまえ!!」
そう恫喝し、激昂し、蓋を思い切り閉じてゆく。
哀しい事に手動であるが、騎士はその明らかに重そうな蓋を嬉々として閉じてゆく。
その間に夏御蜜柑を見つめる。
泣いている。
哀願している。
訴えている。
すばらしい興奮だ。
悪魔は死ぬべきである。
よって、殺すのだ。
正義なのだ。
快楽なのだ。
夢想。
射幸。
理想の桃源郷。
「ふ、ふぁ〜!」
夏御蜜柑が何か叫んでいる。
悲鳴だろうか。
嬉しいな。
よし、殺そう。
「ひゃ、ひゃめへ・・・」
無駄。
「死ね」
蓋は、閉じられた。
刹那、爆裂的な衝撃が、騎士に伝達する。
手榴弾が爆発したようだ。
騎士はにこにこと笑いながら蓋を開ける。
むわっとした臭気と、焦げた血の匂い。
そこにあるのは。
見るも無残に血と黒煙にそまったぼろぼろのケロイド。