この世界を構成すると定義したもの。
それは空間なのだ。
この世界を定義する唯一の概念。
それは『空間』
この世界には空間以外何も存在しない。
でも、この『空間』という世界には、少なくとも5人の概念があった。
幻想主人。
空想侍女。
御川啓介。
菜種千夏。
それから。
私、水村蜜柑です。
私は概念です。
私は存在してません。
でも、幻想主人ことご主人様に存在を定義されています。
つまり、どうでもいいこと。
私が定義されている概念は『可能』です。
世界の色彩だそうです。
よくわかりません。
ご主人様は『否定』
空想侍女様は『不可能』
御川くんは『定義』
千夏ちゃんは『肯定』
つまり、私は『可能』が擬人化したものとお考えください。
私を含める5つの概念が空間を構成しています。
だから、私たちは誰か1人でも欠けてはいけないんです。
そんな私たちはいつしか『紅の草原』に佇んでいます。
たしか1970年間。
ここでの時間の定義とは、空間から紅の草原に至る道程の結果、未来の終焉に対する曲線、座標を無視した観念的な定義。
つまり、時計とは違うんです。
例えば言い当てっこで1352と定められた数字を勘だけで当てるとします。
この際答える側は無数の数字から、何桁の数字かさえ教えてもらえません。
つまりノーヒントなわけです。
1000を当てれば感心されます。
1300を当てれば凄いと思われます。
1350まで当てれば驚かれます。
でも、1352まで当ててしまうと気持ち悪がられるんです。
そんな時間の観念です。
この世界を構成する時間は全てそういうものです。
だから、時計ではないんです。
世界は廻る。
来るって狂って繰るって刳るって。
来る繰る刳る駆る。狂?
世界は廻る。
蜜柑は授業を終え、1人廊下をてくてくと擬音を立てながら歩いていた。
赤く爛れる蕩けた廊下は狂乱の審査を寂寛する。
高くから落下した赤色巨星が猫の髭で大爆発を起し、世界に亀裂が走る。
蜜柑はそんないつもの光景に何の感慨も抱かずそのまま次の教室を目指す。
ふと、前方に異質な障害物を見つけた。
それは太陽だった。
教室の中に突如具現した太陽が一瞬にして蜜柑を包み込んだ。
1600万度の灼熱が蜜柑を襲う。
しかし蜜柑はつまらなそうに一言。
「邪魔です」
と告げた瞬間太陽は霧散した。
蜜柑はあらゆる自体を可能とする。
そのまま目指した教室のドアをがらりと開ける。
瞬間的に流れるのは風。
狂ったような風がそよ風となって世界を吹き飛ばす。
これは、比喩ではない。
本当に世界は吹き飛んだ。
それに、いかなる物理的衝撃も通用しない。
法則が違うのだから。
しかし世界は吹き飛んでも教室も、ましてや蜜柑は吹き飛ぶ事などなかった。
「あ、蜜柑ちゃーん」
蜜柑はつまらなそうにその発信音源の具減退、声の生成される音波の境地に目を傾ける。
声の音波が肌触りが悪い。
しかし蜜柑はそんな悪寒を無視し、そのまま発信源、千夏のもとへ歩み寄る。
「千夏ちゃん・・・」
千夏は肯定であるから世界を肯定している。
肯定する世界の具現を蜜柑が可能としているからこうして世界は生成される。
嫌ではないが、決してよくもない束縛だと蜜柑は感じた。
「えへへ、どうしたの?」
「ううん・・・何でも」
蜜柑はそのまま机に向かいて椅子に腰掛ける。
その一連の動作はどこまでも法則的で何故か気に食わなかった。
せめて椅子が蜜柑に座ってくれればどれほど愉快だったことか。
それが蜜柑にはできるから余計いらついた。
「ん? 何?」
「うん・・・椅子に私が座るんじゃなくて私に椅子が座ってくれればいいのになあって・・・」
「そっか。そうだよね。いっつもあたし達が座ってちゃ面白くないもんね。じゃああたしが蜜柑ちゃんに座ってあげるよ」
「え?」
言うが早いか一瞬の間隙どころか刹那の間もなく千夏が電光石火の早業とも言うべき絶望的かつ絶対的な超絶なる高速移動をもって机から吹き飛び、そのまま世界を突き破り宇宙をぶち壊し地球に到達したと思ったら踏み台にして太陽に突撃し、その太陽を霧散させた爆発によって再び教室に舞い戻り、同時に高高度からの落下速度によって蜜柑の膝を起点に着地した。
「ち、ちょっと・・・」
蜜柑は困惑を隠せない。
世界は静寂となり、のこったのは壊れた天空だった。
そんな中、御川が教室に入ってきた。
当然疑惑は疑問なり、嫌疑するのだ。
しかし困惑は定例的なもので、判断の供奉たる狂乱の崇拝。
御川は至極当然かつまっとうな反応を、常識的に発動させる事に成功した。
「2人で何してんの?」
その反応こそがどれだけ違和感を覚ええないのかをこの時御川は悟った。
ああ、違和感。
涙がでてくる。
だからこそ呟いた。
「俺にもやってほしいな」
何て違和感的。何て空想的。何て別世界的。何て常識的。
ああ、違和感。
そんな違和感の感受に肩まで使っていると、空想侍女がやってきた。
「さて授業ですよ〜。遊んでないで座ってくださいね〜」
「「「は〜い」」」
授業が始まってすぐの事だった。
突如として幻想主人が現れた。
現れたとは言うまでもなく教室内に侵入してきたという子供的な証。
しかし具体的に考えれば当たり前なんて理論はこの世界ではなくても通用しない。
何故なら当たり前なんて50年も経てば内容が変わってしまうんだから。
「じ、侍女さん」
幻想主人は息を困惑させながらいかにも疲れていた。
汗がびっしょりだ。
これには空想侍女はおろか3人も困惑する。
しかし声を発したのは空想侍女だけだ。
「どうしました? そんなに慌てて」
ぜーはーぜーはーと擬音でも比喩でもない息継ぎをしながら幻想主人は言う。
世界は流れるように螺旋を描き世界を浸透させる。
ニーチェなどこの世界では何の役にも立たない。
当たり前である。
「な、な、なななな」
「な? 『な』って何ですか? 変な旦那様」
その困惑は焦燥だった。
疲れていた。焦っていた。迷っていた。蹲っていた。狂っていた。
あああああああああああああああああああああ。
そんな絶叫がどこかで木霊する。
あの連鎖。
あの連鎖。
あの連鎖。
そんな連鎖に負け劣らじの声で幻想主人は告げた。
「な、な、夏御蜜柑が!! 夏御蜜柑が現れた!!」
その言葉は空想侍女はもちろんだが、それ以上に水村千夏と、御川啓介と、菜種蜜柑を驚愕させた。
何故なら、絶対に、この世界に、夏御蜜柑なんて概念が存在するはずが無いんだから。