夏御蜜柑は誕生する。
「そうそう、そうだよお母さん」
夏御蜜柑の慈悲はどこまでも散華する。
悲惨な合成。
矛盾現象。
存在矛盾。
存在矛盾。
矛盾。
矛盾。
矛盾。
矛盾。
矛盾。
矛盾。
矛盾!!
今、矛盾が具現する。
水村蜜柑は消滅しようとしている。
菜種千夏も御川啓介も既に消滅している。
夏御蜜柑は存在していない。
今、どこからともなく違和感が爆発する。
全てを貫く矛。
それは可能である。
故に、矛は水村蜜柑。
全てを弾く盾。
それは、不可能である。
故に、盾は空想侍女。
そこに、肯定はいらない。
否定もいらない。
夏御蜜柑に父親はいない。
2人の母親によって誕生する。
夏御蜜柑の誕生を阻止するべく、幻想主人は夏御蜜柑が誕生する前の世界に存在する。
この世界は、宇宙が誕生するよりも遥か前。
この世界には、空間がない。
唯一の概念は空間。
それを、幻想主人が生成した。
遅い、夏御蜜柑は誕生しようとしている。
今、夢幻主従が形成されていながら。
「く、くそおお!!」
もはや誰にも理解できない。
夢幻主従はまだ意識が統一されていない。化合されていない。
故に、幻想主人と空想侍女の心理が分離中である。
その間隙を、夏御蜜柑は見逃さない。
「ねえ、そんなにあたしを殺したい?」
夏御蜜柑は冷たく囁く。
「殺す。お前を殺す」
幻想主人の言葉が、夢幻主従から紡ぎ出される。
「だから? あたしが生まれる前に殺すの?」
「それしかないだろうが、お前を殺す方法は」
「でもね、あたしが笑うのはあたしが生まれた時だ。ご主人様ごめんね〜。エデンを壊して」
「!」
一瞬だけ、夏御蜜柑が冷笑を浮かべた気がした。
しかしそれは錯覚。
「そもそもこんな世界は存在しない。あるのは空間。だから、現象は全部違う。おかしいよね、ご主人様はこれからあたしに殺されるんだから」
「黙れ」
「嫌だね。世界なんか存在しない。空間なんかどこにもない。あるように見せかけているだけ。これは全部擬人化、空間捏造化したただの虚無? いや、空間がないから虚無ですらないね。存在しないもの、ココは」
夏御蜜柑は笑わない。
依然、蜜柑と夢幻主従は化合している。
何故なら、ここに世界は存在しないから。
時間がない。無が無い。色がない。圧力が無い。空間がない。味がない。感触が無い。匂いもない。重力も無い。そして、無いが無い」
無いが無いが無いが無いが無いが無いが無いが・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無い。
メビウスメビウス。
無いのメビウス。
つまり、0。
ここは0だ。
つまり、開闢以前のさらに前。
世界は存在しないどころかこの世には一切の概念がない。
観測者もない。
人間の頭脳では絶対に理解できない領域。
矛盾が発生する。
ここは、無智無能の世界だ。
だから、今、夢幻主従は無智無能となった。
これは妄想だ。
妄想を矯正する。
そして、0に戻す。
無に戻す。
世界なんてものは、概念なんてものは、無くならくてはならない。
「それは無理だね」
夏御蜜柑はぽつりと呟く。
遅かった。
夏御蜜柑は誕生した。
「遅いよ。世界は生まれたよ。だからね、無はね、コインの裏だと思ったら大間違い。コインが無い状態が『無』なんだよ、だからね、ここはコインの表になっちゃった。お財布からコインがでてきちゃった。コインの裏は誰かな? そう、それが」
遅かった。
財布がこの世に存在しなければ世界は誕生しない。
何故なら、コインが出てこないからだ。
だから幻想主人は財布を否定しようとした。
そうすれば、世界は永久に開闢しない。
しかし失策。
財布とは、夏御蜜柑こそが、財布なのだ。
夏御蜜柑は、財布だ。
失策。
原初。
これが原初だったのだ。
夏御蜜柑は今、笑っていないのだろうが、感覚的に、笑った気がした。
冷笑。
「神様は人が作ったんだけどね、天地開けて肇した後に神様は生まれた。つまり、神様というのは矛盾現象によって世界に空間という概念が誕生した後に誕生したんだよ」
あ。
そんな言葉が聞こえた。
「神様が誕生する事も、世界を作ることも、また、7日で世界を形成したとしても、そこには『虚無』という確固たる『空間』が必要になる。つまり、容積。容積が0だと世界は作れない。また、神様が容積を広げられるのならその記述が必要になる。でも、ない。世界を作ること、天地創造は簡単に出来る。でもね、容積を、0をカタチにできるのは、あたしだけだ」
は。
「だってそうでしょ? 0がカタチになるなんて矛盾もいいとこだ。だから、あたししかできない。だってあたしは矛盾だもん。あたしは矛盾だから、0をカタチにする事を可能とする」
は。
「だから、あたしは神様の生みの親になるのかな。」