夢幻主従は紅の草原を空へ吹き飛ばした。
大陸が宇宙空間に漂い、残されたものはただただ大海原である。
緑色の空が青に染まろうとする夕方。
蒼の空と翠の空が合わさる。
夢幻主従は笑った。
「ふふふ。これから世界は無くなるのです。私は無智無能なのですからね」
無智無能なる概念は、異質だった。
青々青々。
蒼青の碧。
そんな空にて夢幻主従は浮かぶ。
どこまでも幻想的なその光景は一切の概念をよせつけない神々しさを纏う。
全ての概念を否定した力。
無智無能。
夏御蜜柑はそんな夢幻主従の絶対性を今、ここで、初めて、侮蔑した。
だからこそ、夏御蜜柑は、たぶん、きっと、もしかしたら。
生まれて初めて、『夏御蜜柑になって』初めて、笑った。
「あはは」
まるで世界を呪うような、神々しすぎて邪気さえ纏う全ての肯定。
そんな笑いだった。
もし、ここが常識的な世界であるなら、あの笑いだけで木っ端微塵となるだろう。
「あなたは無智無能なんだよね。だったらあたしは何かな?」
夏御蜜柑の殺気はあまりにも桁違いで世界全てが崩落する。
しかし、全ての概念を否定する夢幻主従には通用しない。
世界はいつしか歪んでいた。
夢幻主従は笑う。
「ふふ、夏御蜜柑。では私があなたの存在を定義してあげましょう」
「あはは、そうだね、じゃあ頼むよ。できればあなたみたいなのがいいなあ」
「では私の対極として、『全知全能』というのは如何でしょう? これはわたしとは違い全ての概念の肯定です」
「全知全能・・・いいね。気にいった。じゃあこれからあたしは永久に全知全能だ。ありがとう。ご主人様」
「いえいえ。では、2人で世界となりましょう」
「あはは、そうだね。2人で世界をぶっ壊そう」
2人の笑みは狂っていた。邪悪だった。
いかれていた。
世界はこの瞬間消滅を迎える。
「では、私は全てを否定します」
「じゃあ、あたしは全てを肯定するよ」
刹那、世界は全てを消滅させた。
色もなく、形もなく、匂いもない。
世界とさえ定義すべき概念が何もない。
それは、当然と言えた。
「全てを否定する概念と、全てを肯定する概念が衝突したのだから」
この瞬間、世界は矛盾を迎えた。
かつての世界においてただ1つ定義されなかった概念が、初めて具現した。
矛盾にカタチが生まれた。
「ふふ、できました。ようやく・・・」
「そうだね。コレができた。では、あなたはもういらないよね」
「え?」
夏御蜜柑はこの時笑った。
邪気。殺気。悪気。呪気。怨気。
狂ったような笑い。
「あはは、今あなたと私は同じ概念なんだよ。矛盾という概念だからね」
夏御蜜柑は笑う。
「だからこそ、今なら」
夏御蜜柑は笑う。
「あなたを消す事ができる」
夏御蜜柑は笑う!
「あはははははははは!! さよなら夢幻主従。あなたが悪いんだよ! あはは!! あっはははははは!! あなたがあたしに全知全能なんて定義したから!! 定義したから!! あはは! あはははははは!! だからあたしはこれから概念を定義しなくちゃならなくなった!! あはははは!! あはははははは!! 『ココ』を創らなくてはならなくなった!!」
夏御蜜柑の笑いが止んだ。
そして、告げる。
「さよなら御主人様」
消えた。
間隙、生み出されるのは、空間。
今、この瞬間、概念が誕生した。
再び。
夏御蜜柑は泣いた。
「1500年くらいかな?」