「か、帰してください」

「ふん、何言うとるんじゃ。おのれはもう二度を家には帰れんのじゃ」

「そ、そんな・・・何も悪い事してないのに・・・」

「へっ、何言うクソガキ。わしの目の前を悠々と歩いたおのれらが悪いんじゃ。恨むならそんな面に産んだ親憎めや」

 まるで徳川家光のような台詞。

 ちなみに家光の政治では年貢を払えない家は娘を拉致し、監禁して年貢を払うまで帰さないというとんでもない真似をしていた。

 しかもほとんどが水牢か蓑踊りで殺されるという悲劇。

 さすか暴君、家光。

「う、うう・・・」

「か、帰して」

 泣きべそをかく2人に早雲が舌なめずりをしながらじっと見据え、告げた。

 笑いを堪えるのに必死だった。

「そうなあ・・・だったら春だ。春になったら帰したる」

「え? は、春?」

 案の定目の色が変わる2人。

 無理だというのに。

 今まで、『春まで生きていた人間はいない』のに。

「そう、春じゃ。春までこの屋敷にいろや。何、飯は白い飯食わしたる。おのれらには祭か正月でしか食うたことないだろ。うまいぞ白米は。あれ食ったらもう粟も稗も食えたもんじゃねえ。麦ですらまずく感じるほどじゃ。・・・そうさな。他にも洋服着せたろ。下着っちゅうもんも穿かしたるわ。おのれらは一瞬にして上流階級の仲間入りじゃ」

 邪悪な甘言だった。

 しかしそれでも家は恋しく、また早雲の邪悪な目つきがどこまでも怪しかった。

 だから、首を縦には振らなかった。

 そこで早雲が下卑た目つきで駄目押しをする。

「よっしゃ。だったらおのれらの親の税金徳政したるわ。・・・そうか、おのれらひらがなも読めんのに徳政なんかわかるわけないわな。つまりじゃ、今までの借金も、来年の税金も催促せんってことよ」

「え・・・」

 揺れた。

 それは揺れる言葉だった。

 早雲は笑いながら続ける。

「そうなあ・・・だったら小作料もわしが立替えといたろか? いや、本百姓にしたったってもいいぞ」

 本百姓。

 これは金持ちの称号だ。

 なんせ小作料を払う必要がないため、収益の半分が搾取される事がない。

 つまり、今までの倍の収益を見込めると言う事。

 2人は完全に落ちた。

「わ、わかり・・・ました」

「おう、それでええんじゃ。女は素直でないといかんの」

 

 

 

 いまから思うと、それは間違いでした。

 何故、あの時あの人の言葉に惑わされたのでしょうか。

 今となってはもう、わかりません。

 

 

 



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