鞭。
鞭は一本鞭の方が痛い。
幾重にも連なる鞭は一本鞭に比べれば痛みは少ないのだ。
その理屈で言うと、ドラえもんの映画のドラビアンナイトでアブジルが持っていた鞭の攻撃力は少ない、という事になる。
さて、鞭というヤツが実はとてつもない殺傷力を持っていることは非常に有名である。
人間は、体は鋼鉄かもしれないが、精神はガラス製なのだ。
飛び降り自殺の死因の最たるものは何か?
それは打撲ではない。
出血多量でもない。
衝撃によるショック死だ。
過度の衝撃は精神に莫大な負担を強いる。
さて、騎士が今手にしているのは鞭である。
しかし、それはただの鞭ではない。
本来鞭とはハーネスが有名であるが、これは鉄でできている。
鉄のパーツが骨子となって幾重にも連なる。
鉄と鉄は鎖によって形成される。
鉄の蛇。
そして、その鞭にはバラ線が満ちている。
そのバラ線の異質さはまさにキリストの冠。
おそらくこんな鞭で叩けば肉は避け、臓器が露出してしまう事だろう。
騎士が夏御蜜柑に作らせた、おそらく世界一エグイ鞭。
彼はこの鞭を『茨の月桂樹』と名づけた。
それは処刑用の鞭『茨の冠』と『月桂樹』を足して2でわったような鞭だからだ。
この『茨の月桂樹』は鎖の間に強靭なバラ線が仕込んであり(月桂樹)、かつ鞭の先端には鉄でできた棘球(茨の冠)が両方存在する極めて悪質な鞭なのだ。
本来この鞭は拷問用ではない。
何故なら使用すると相手が死んでしまうからだ。
そのため最初から殺す事を目的としていない限り、この鞭は使い物にならない。
核兵器のようなものだ。
だが、騎士は知っている。
たとえこれが鞭ではなく核兵器だとしても、夏御蜜柑は屁とも思っていない事を。
だから、何の躊躇いもなく、この『茨の月桂樹』を炸裂させた。
そこにはパシーンなどという小奇麗な炸裂音は存在しない。
肉を抉る、悪魔の音波。
ゾリっという肉が千切れる音と、鞭の衝撃音。
バリっという音がする。
悪質な音波。
それをまず地面に炸裂させた。
悪魔の音叉が共鳴する。
「ひいっ」
夏御蜜柑は恐怖する。
それが、全人類史上にして至上の奇跡だと言う事を、騎士は知っている。
「ふははは、いいぞその表情・・・もっとおれに、おれに見せろ」
「うう・・・」
夏御蜜柑の歪む顔だけで射精してしまいそうだ。
騎士は興奮を隠せない。
「さて、この人間には絶対に使えない鞭で・・・お前の悲鳴を聞かせろ・・・聞かせるんだ」
狂った声は響く。
うねる。
歪む。
捻る。
「や・・・やめてください・・・死んじゃいますよう・・・」
刹那、騎士は笑う。
「ははははは!! あははははは!! ひーっひっひっひ!! うへあははあはああははははは!! 何言ってんだ夏御蜜柑? お前が死ぬわけねえだろうが・・・・・・よ!!」
弾く。
叩く。
振りぬく。
悪魔の鉄鎖が。
その音は、パシーンという音ではなかった。
「ひゃあああああ!!」
絶叫。
苦痛の果ての殺傷。
場所は背中から尻。
にも、かかわらず。
肉は抉れ、血が噴出し、骨が砕けたようだ。
悪質な結末が炸裂する。
「あはははは!! すげえすげえ!! ほんとに鞭かコレ? おい夏御蜜柑。立てよ」
夏御蜜柑は先ほどの一撃によって崩れ落ちている。
当然だ。
「うう・・・はあ・・・うあ・・・む、無理ですう・・・も、もうやめて」
その息継ぎ一つ一つが快楽となる。
何故なら、こいつが夏御蜜柑だから。
「骨が砕けた程度じゃ問題ねえだろ。さっさと立て。立たねえと・・・ふっ!!」
炸裂。
鉄鎖と茨の冠の悲劇。
舐るような悪魔の笑い。
それは肉を裂き、骨を抉り、内臓を破裂させ、血を噴出させた。
そこに、鞭特有のカーブ状の痕などない。
あるのは、ぐちゃぐちゃになった夏御蜜柑の体だけ。
しかしそれでも騎士は鞭を炸裂させる。
快感は殺人のオルガスムスを凌駕する。
夏御蜜柑はもう、悲鳴さえ上げられない。
「がぼっぐぶ」
何を言っているのかさえ解読できない悪質な断末魔。
「ははははははは!!」
騎士は笑わずに入られなかった。
「痛いか?」
確認の表情はどこまでも満面の笑みだった。
夏御蜜柑は朧に答える。
「い・・・たい・・・です」
この時点で意識があるところが既に人間ではない。
騎士は少しむかついた。
「そうか、まだしゃべれるのか。こんどは前だ。お前の内臓をぜんぶブチまげてやる」
「い・・・・・や」
しかし夏御蜜柑はあお向けになる。
従順なところは、騎士の興奮の覚め止まぬところだ。
「さあて、お前の臓器を見せろお!!」
激昂と間隙。
破裂する肉体。
「あはははははははははははははははははははは!!」
「あっ・・・うっ・・・」
肉体が解剖される。
夏御蜜柑は光を失い、言葉を失っていた。
しかし騎士は止めない。
永劫に叩きつつける。
体も心も興奮が臨界を突破し、何時間叩いても辟易しない。
何時間も何時間も狂ったように叩きつづける。抉りつづける。
ふと、気づいた頃には。
夏御蜜柑は首から下が無かった。