
宮本武蔵は今現在死の淵に立たされていた。
彼は強かった。
出鱈目に強かった。
が、水村潤香はもっと強かった。
「この女が!」
彼の名が350年近い前のどこぞの剣豪と同姓同名だったのは偶然だった。
彼自身がその偶然に感化され、剣道を始めた。
だがそれが瓢箪から駒で、彼はめきめきとその才覚を見せつけた。
しかし目の前にいる女は異常だった。
人間ではない。
こっちは名刀『五字忠吉』なるものを持参している。
時価数千万の名刀だ。
一方この女の刀は今にも割れそうな仕込み杖。
話にもならない。
が、おそらくこの女なら。
竹串一本でも武蔵の刀を対等に渡り合えてしまうのだろう。
潤香は刀を納めた。
そのまま構えを取る。
「居合か」
武蔵にはそれがとどめを刺す一撃である事を即座に理解した。
武蔵も上段に構え、停止する。
潤香と武蔵がほんの一瞬だけ停止する。
が、次の瞬間。
武蔵が刀を振るった。
この速度なら潤香が抜刀するよりも速く切れるだろう。
しかしありえない。
潤香の抜刀のその瞬間が全くわからなかったのだ。
武蔵の人生40年始めての出来事だった。
解答。
潤香の抜刀は武蔵の反応速度より疾かった。
それだけのこと。
実際に抜いたのは、確かに武蔵の斬撃の後。
それよりも速い一撃。
それだけのこと。
武蔵は何が起こったか全く理解の不明のまま。
首を刎ねられ絶命した。
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(中略)
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便所に行くにも、部屋からでるにも、風呂に入るにも、寝るにも天一はルルに許可を願い受諾されはじめて行使できるが普遍的にルルは許可しない事はないので問題ではない。
問題は天一の財布事情にあった。
第五条によって天一の財布の中身は常時空っぽであり、ジュース一本買うにもルルに申請し、金を受け取る。
ただ、そのため不要な買い物は一切できず、ルルの方針なのか間食の類は一切合財許可されない。
実は天一はここ7年清涼飲料水やジャンクフードの類を口にしていない。
当然であるが、買い物の際にはレシートの提示と、お釣りの提示を義務づけられている。
いい年こいてなにやってんだか、と恨まない事はない。
しかしこの奴隷にも等しい生活の中にあっても天一は文句一つ言わない。
「ねえルル」
「はい、なんでしょう?」
「たまには菓子が食べたいんだけど・・・」
天一は少し怯えた様子でルルに窺う。
それに対し、ルルは優しい笑みを浮かべて天一を嗜める。
「お茶請けでしたら私がお作りいたします。天一様。私の目の黒いうちはそういう添加物を口にすることを許しません」
いつもならばここで「ごめんなさい」と頭を下げてしまうのだが今日は粘ってみた。
「でもこの年でそんな事言ったって・・・いくらなんでもジュース一本飲む事を許さないってのはちょっとやりすぎじゃないかな・・・」
ルルは一瞬唖然としたが、すぐさま言い返す。
笑みは絶やさないで。
「申し訳ありません。しかし何と仰られてもお金は差し上げません。天一様、私の言う事が聞けないのですか?」
途端、天一は怯えだした。
「ご、ごめんよ。口答えなんかして悪かったよ。そうだよね。ルルはおれの主人だもんね」
「ええ、私は天一様の主人として天一様を立派に育てる義務があります」
(自殺未遂〜Spiral to with to the moon〜9話より抜粋)