「おいおい、止まるんじゃねえよ。もっと動くんだよ」
騎士は椅子にて煙草を吸いながらやに下がった表情で夏御蜜柑を眺めていた。
「あう・・・だ、ダメ動いたら・・・擦れて・・・・・・ああっ」
夏御蜜柑はお盆の上に水を限界までのせたコップを両手に持ち、騎士のもとへ歩んでいた。
しかし、その股間には、ある種お約束であろうが、縄が食い込んでいた。
そう、これは縄渡りである。
「そうかそうか、どうした? 早くこいよ。もっとも水を零したら罰ゲームが待ってるがな」
「はあ・・・はあ・・・あっ、も、もうダメです・・・許してください・・・・・・」
その紅潮した表情が騎士の嗜虐心をどこまでもくすぐった。
煙草がこんなに美味いと感じたのは生まれてはじめてだ。
「何言ってんだ? ずいぶん気持ちよさそうじゃねえか」
「ひああぁ・・・で、でも・・・でもう・・・な、何か・・・」
「くくく、いい反応だ。そのままもっともっと悶える姿をおれに見せろ」
「あ・・・はあ・・・うあ・・・も、もう・・・」
その表情。
どこまでも騎士を興奮させた。
騎士は震える声で告げる。
「ほら、まだまだいけるだろ? 早く持ってこいよ」
「ゆ、ゆるしては・・・もらえないんですか?」
夏御蜜柑の双眸に宿る涙。
信じられない感動だった。
そう、騎士は普通の女がこんな真似をしてもここまで興奮はしない。
夏御蜜柑だから。『あの』夏御蜜柑だからこそここまで興奮できるのだ。
「当たり前だろうが。お前は言い訳なんかできる立場にいねえんだよ」
「わ、わかり・・・ました。うああぁ・・・う、動くたびに縄が食い込んで」
縄は言うまでもなく所々丸い結びがあり、縄も荒縄だった。
「いい感じに食い込んでるな。美しいぞ夏御蜜柑」
「あ、ありが・・・ああぁぁ・・・とう・・・あ、だ、ダメ。来ちゃう。・・・・・・あああああああ!!」
刹那、夏御蜜柑は絶頂した。
当然水は零れ落ちる。
「なんだ、イったのか?」
「は、はい。あまりにも縄が気持ちよくて・・・」
「しかし水はこぼしたよなあ? 夏御蜜柑」
「す、すみません・・・」
夏御蜜柑は跪き、謝罪する。
騎士は思う。
今までこいつに蹂躙の限りを尽くされた連中がみたらどう思うだろうかと。
「さあて、罰ゲームだ」
「うう・・・はい」
騎士は夏御蜜柑を縛り上げ、宙吊りにする。
しかしポーズは子供におしっこをさせるアレ。
ふと、手にとった浣腸を見て思った?
こいつにこんなもんぶっ刺しても果たして効果があるのだろうか?
すごく意味がない気がする。
「おい、夏御蜜柑」
「は、はい。なんでしょうか?」
「お前、『何でもできる』よなあ?」
騎士の表情に邪悪が宿る。
しかしその心中では何で夏御蜜柑のためにここまで頭を捻らなければならないのだ、という慟哭に満ちていた。
夏御蜜柑はどこか困惑した表情を浮かべながら頷いた。
「は、はい・・・・・・お望みでしたら・・・何でも」
「そうか、ならお前を水没させてやる」
水没。
夏御蜜柑は水没した。
「う・・・ごぼ・・・」
夏御蜜柑は現在両手両足を拘束され、重しをつけられたまま水槽の中に沈められている。
無論全て夏御蜜柑謹製だ。
「いいぞいいぞ夏御蜜柑。そのまま溺死しろ」
夏御蜜柑は必死に空気を取り戻そうともがく。
それが嗜虐的で、興奮的で、快楽的だった。
「いいぞ。もっとだ。もっと悶えろ。そして死ね!!」
騎士の興奮は絶頂の彼方にあった。
夢の中に聳えるのは溺死の興奮。
死にゆくその瞬間を目の当たりに出来る享楽。
愉悦。
最高だった。
騎士は笑う。
「死ね。夏御蜜柑。頼むから、溺死してくれ! いや、溺死しろ!! これは命令だ!!」
興奮。興奮。
嗜虐的興奮領域の彼方に聳える夢の桃源郷。
即ち、悪魔の愉悦。
笑う笑う。
凄く笑う。
騎士は、笑うのだ。
夏御蜜柑はもがき、苦しみ、溺れ、死にゆくその姿が途轍もなく美しい。
なんという光景。
夢の中だ。
騎士は笑うのだ。
「やはり俺はお前が死に行くその姿の方が興奮するなあ」
もう、射精しそうだ。
やはり人間が死ぬ姿の方がいい。
そう、騎士は確信する。
「いいぞ、死ね。死ね。死ね死ね死ね」
「うっ、ぐばっ、げぼっ」
声はでない。
時折聞こえるのは水から噴き出るあぶくのみ。
しかし確かにそれが夏御蜜柑の悲鳴だと思うと、興奮を隠せないのだ。
だって、おそらく夏御蜜柑の悲鳴をきいたのは自分以外誰もいないから。
絶対に。
「がぼぼぼっがば!」
最後の音叉。
それと共に、夏御蜜柑は水の中でぐったりと停止する。
しかし、騎士は許さない。
ずっとずっと、夏御蜜柑の水没を肴に興奮を嗜んでいた。
酒は、隣に。
しばらくして、夏御蜜柑がふくらんだ。
まるでふぐ。
「きたあ!!」
瞬間、騎士の興奮は最高の状態に変化し、夏御蜜柑が食物連鎖の下っ端になるのを確認して、射精した。