「ねえおかーたん」

「ん? 何?」

「おかーたんにお願いがあるのー」

「だから何?」

「くーでたーの国がほしーの」

「国?」

「そー。くーでたーはずっと前から国がほしかったのー。それでね、王女様になってね、かっこいー男の子はべらしたかったのー」

「・・・ふうん。でもあたし王国って嫌いなんだよねえ」

「なんでー? いろんな地球で流行の最先端なのー」

「あたしは共和制のほうが好きだね。王制はどうもね」

「あっちの地球でもこっちの地球でも王国がいっぱいあるよー。これからも王国は増えると思うのー」

「でもあと数百年で王制は廃れるよ」

「廃れないよー。おかーたんは4000年前から廃れる廃れるって言ってるけど4000年たっても流行の最先端なのー」

「わかったわかった。で、どの地球にする?」

「んーとね、じゃあこの地球」

「うん、わかった。ただし、国家元首はあたしだよ」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜やだー。くーでたーが王女様―」

「別にあんたが王女でも構わないよ。ただし、『陛下』はあたしだ」

「そんなー。それじゃくーでたーはただの王族の娘で終わりじゃないのー」

「あはは。じゃあ王制をやめようか?」

「やだー」

「じゃあどうする? あたしはあんたが何と言おうと国家元首の座は渡さないよ」

「うー。じゃあ立憲君主制にしようよー。あそこの地球で流行りそうな」

「つまり・・・あんた首相?」

「そー。王様はおかーたんなんでしょー? だったら首相でいいから国を動かしたいのー」

「あはは。わかったよ。じゃあ王様・・・うーん、いや、『元首』でいいか。元首があたし。じゃあ、あんたは首相ね」

「うわーい」

「あ、待って」

「何ぃ?」

「あんたは国でなにがやりたいんだっけ?」

「えーとね、綺麗な男の子や女の子はべらしてね、街つくったり、えーとえーと、とにかく色々やりたいのー」

「わかった。じゃあ、あんたは内政の全権をあげる」

「ないせー?」

「そ。そのかわりあたしは外交の全権を貰うよ」

「え〜なんで〜」

「あたしは国つくったら軍隊を率いて周辺諸国を制圧して、植民地にして、あるいは吸収して、怯え、逃げまとい、あるいは勇敢にあたしに立ち向かう人間たちが見たいんだ。だから外交は全部あたしのもの。嫌なら国は作らない」

「わ、わかったよー。お外はおかーたんのものでいいよー。そのかわり中はくーでたーが好き勝手にやるよー?」

「あはは。いいよ。じゃあ国を作ろう! なんて名前にしようか?」

「そだねー。破滅王国とか」

「縁起悪いからやだ。・・・・・・そうだね、夏御帝国でいいだろ」

「おかーたんの名前?」

「まあ、半分だけね。帝国なのは問題ないよね」

「ないよー。でも何で王国じゃないの?」

「王国の統治者は王様。帝国は皇帝。OK?」

「あーそっかそっか。うん、わかった。おーけーおーけー」

「よっしゃ! じゃあ早速あたしは領土を作るために近くにある全ての国をぶっ壊してくるよ!」

「いってらっしゃいおかーたん! くーでたーはそのあとの土地をせーりするのー!!」

 

 

 

 400年後。

 

 

 

 ここは、別の地球。

 宗教大政クロレラ共和国がある地球。

 夏御帝国は世界一の超大国として世界を征服した。

 だが、世界中の旧国家が反旗を翻し、紛争の末、夏御帝国から500以上の国々が独立を果たした。

 でかすぎる国は統治しきれない。

 これは、世界共通の法則である。

 

 場所は、首相官邸。

 建築は現代的な高層建築。

 中は近未来を彷彿させる電子的な構造。

 そんななかの、一室。

「あーあ、最近綺麗な男の子いなくて退屈なのー。そう思わない? 芽子?」

「・・・お答えできかねます閣下」

 それは、一言で言うのなら着物。

 ただし、この着物は振袖ではなく袴である。

 また、明らかに日本刀と思われる刀を帯刀しており、一見して侍を彷彿させる。

 しかし、芽子と呼ばれた彼女はまだ少女。20にさえどう見ても到達していない。

 そんな姿の少女をつまらなそうに項垂れるカタストロフちゃんに傍で佇立している水村芽子が、少し辟易した面持ちでぽつりと言った。

「冷たいのー」

「・・・申し訳ございません」

 素直に頭を垂れる芽子の表情は、しかし鉄仮面だった。

 それに、少しだけ苛立ちを疾走させる。

「芽子」

「はい閣下」

「芽子はくーでたーの何?」

 威圧ある言葉。

「老中で御座います」

 夏御帝国は幕府であった。

 元首である夏御蜜柑に、任期が終身である将軍様こと首相。さらにシステムも老中が一般に政治を見ているところ、警察機構が奉行であることなど、幕府に近しいシステムを構築していた。

「そ、ユーはくーでたーの老中、つまり家来なのー。それなのにその冷たい反応は何?」

「申し訳ございません閣下。以後このような事がないように猛省いたします」

「そう、じゃあ聞くけど、最近綺麗な男の子いなくて退屈なのー。そう思わない? 芽子?」

 カタストロフちゃんは少し意地悪そうな笑みを浮かべる。

「では、20億の民から幾人か徴用いたしましょうか?」

 少しだけ、芽子は侮蔑の含んだ皮肉の笑みを浮かべた。

 夏御帝国の人口は20億。

 ほとんどの国が独立を勝ち得たとはいえ、一時期世界の全てを制圧した大帝国は伊達ではなかった。

「駄目なのー。奴隷は違法なのー。200年前だったなら奴隷徴用で官邸に何百人もはべらせたけど、今はそんなことできないのー」

 現在の夏御帝国に奴隷制はない。

 200年前に奴隷解放を行い、現在は一般的な士農工商の階級国家に落ち着いている。

 ちなみに、どうでもいいことだが、夏御帝国の言葉、夏御語はまんま日本語である。

「困りましたね。閣下のご希望に添えそうにありません。いかがいたしましょう?」

 何故か、とげがある。

 それはカタストロフちゃんには少しだけ理解できた。

 なぜなら、芽子はカタストロフちゃんに特別の寵愛を受けていたから。

「芽子。くーでたーは芽子に飽きたわけじゃないの。ただここ何年も男の子いないからほしくなっただけなのー」

「はい」

「・・・・・・・・・わかったの。芽子、脱げ」

「はい」

 刹那、生まれいでたるは妖艶な冷笑。

 正直食傷気味だったが、カタストロフちゃんはそのまま刀を掛け、袴を脱ぐ芽子に近づいていった。

「袴剣のままじゃくーでたー怪我しちゃうからねー。ちゃんと脱がないと」

「はい、閣下」

 袴剣。

 老中、水村芽子の異能。

 芽子が纏う全ての服は例えそれが布一枚だとしても、鋭利な刃物と化してしまう少し特殊な異能。

 そのため、襦袢一つ纏えない。凶器と化すからだ。

「よしよし、よく脱いだのー。可愛いの」 

「もったいないお言葉に御座います」

 幾許の紅潮。

 少し、愉快だ。

「HAHAHAHA。もっとよく見せてー。あーまだ生えそろってないのー。くすくす。えい」

 愉快な心理を内包したまま、カタストロフちゃんは芽子の縦われにそってなぞりあげた、角度は、下から上に向かって。

「う・・・」

 一瞬の錯綜。

 それによって股が閉じられる。

 しかし、その股をなぞりあげ、開くように体で命令する。

 それに呼応するように、少しずつ開かれる芽子の脚は、稚拙な妖艶が内包していた。

 それに、カタストロフちゃんは冷徹に答える。

「芽子。くーでたーはね、同色の毛はあまりないの」

「申し訳ございません」

「でもね、芽子は好き。だからこんなことしてあげてるのー」

 そういって、花びらを指で弄くり始める。

「もったいないお言葉。感謝の言葉もございません」

 だが、芽子はその表情を閉じ、実際には閉じられていないのだが、おそらく彼女の中では閉じられており、その心理を確実のものにするために、一切の間隙のない言葉で礼を述べる。

 そんな、どこか幼稚な健気さは、カタストロフちゃんの慈悲をくすぐった。

 基本的に彼女は夏御蜜柑のような暴君ではない。

 何故なら、彼女は全知全能などではないから。

 力なき暴君などいないように、常に夏御蜜柑の影に隠れるだけの小娘だと、彼女は自覚しているからこそ、彼女の力の及ばない場所では、あまり暴政を強いれない。

「あらら、固くなってきたのー」

「う・・・んあ・・・」

「あらー声がでたよー。我慢しないの?」

 少し、意地悪気なその口調は、彼女にできる精一杯の暴政。

 力なきものは無力であった。

 それは、さらなる弱者が圧迫されて、証明される。

「も・・・申し訳ございません」

「えい」

「うあ!」

 おもむろに、陰毛を引き抜いた。 

 刹那、炸裂するは電子的な感覚。

 それでも、手は休めない。

「えへへ」

 それは、慈悲に満ちた微笑。

 敢えて例えるのなら、聖母マリアに等しい。

「楽しそうだねあんたら」

 刹那、声が響いた。

 瞬間的に二人は声の方向へ視線を向ける。

 それは、当然のごとく夏御蜜柑だった。

「お、おかーたん・・・」

「陛下・・・」

 威圧。

 娘は、反射的に恐怖した。

「だ、駄目なのー。芽子はくーでたーのだよー。おかーたんのじゃないよー」

「あはは。奪ってもいいんだよ」

 冷笑。

 夏御蜜柑の冷笑。

 怖い。

 芽子は、その冷笑だけで、腰が砕けた。

 カタストロフちゃんが娘だからこそ、気丈に耐えられた。

「う、奪ったら殺すのー。くーでたーはおかーたんだって殺せるんだよー」

「ふーん。でもね、あたしは全知全能だ。たとえあんたがあたしを殺しても、あたしは蘇生できるし、そもそもあんたがあたしを殺す前に、あんたを殺すことだってできるんだよ」

 威圧。

 超威圧。

 世界中全ての生物が死に絶えるような強烈な威圧感。

 圧殺される。

 どんな生物も、間違いなく圧殺されるほどの威圧。

 芽子はその威圧に耐えられなくなったのか、がくがくと全身を震わせ、目の焦点が歪み、精神が不安定になった。

 カタストロフちゃんは即座に芽子に近づき。

「芽子、眠って」

 そういって人差し指で芽子の眉間をポンと軽く叩き、芽子の意識を遮断した。

 さもないと、間違いなく廃人となるだろうから。

 しかしそんな威圧の中、彼女は耐えた。

「ず、ずるいのー。くーでたーじゃおかーたんに勝てないってことじゃないのー」

「そうだよ。あんたはどうやってもあたしには勝てない。だからお母さんの言うとおりにしてないと酷い目にあうよ。あはは」

 威圧。

 さらなる強烈な威圧。

 もはや生物だけではなく、首相官邸、否、大地、空、地球そのものが悲鳴をあげている。

 怖い。

「う・・・うう・・・。や、やめてよー」

「やめてほしい?」

 邪悪な笑み。

 悪魔の笑み。

 世界が紅蓮に染まりそうな、地獄からの笑み。

「な、なにー? おかーたんはくーでたーに何して欲しいの?」

「あはは、何その言い草。まるであたしが因縁つけてるみたいじゃない」

 みたいじゃなくて、因縁に違いないのだが、思っても口には出せない。

 例え、心の中を読まれていても、口に出さないだけで慈悲を与えることがあるからだ。

「あはは、いい子だね」

「うー。おかーたん今日何かあったのー?」

「え?」

「だっておかーたんがくーでたーをいじめる時っていつも嫌な事があった時でしょー?」

 過去の経験上、間違いなく理由があった。

 気まぐれである事ほど理由がない場合はない。

 気まぐれの基本定理とは、理由が発生したことをさすからだ。

 しかし、夏御蜜柑はそこには答えず、別の場所を、さらなる強烈な威圧感を持って紡いだ。

「いじめる? 心外だね。訂正しな」

「あ、ごめんなさい・・・」

 恐くて逆らえない。

「ま、いいや。あたしは今日チンケなクソガキを一人ぶっ殺したんだけどさあ、なーんか腹の虫が収まらないんだよねー」

「え〜、くーでたー関係なじゃーん」

「あるよ」

「え?」

「だってそのクソガキは夏御人だもん。国民の不始末は宰相の不始末。よって、お仕置き」

「え〜そんな無茶苦茶な〜」

 無力な慟哭。

 当然、無力な者の末路は悲惨なものだ。

 夏御蜜柑は、威圧をさらに上げ、カタストロフちゃんの下へ歩み寄り、人差し指であごをしゃくった。

「う・・・」

「あたしに逆らうの? あたしは娘だからって容赦しないよ。だって、殺したらまた産めばいいんだし。今度は聞き分けのいい子を産もうかな?」

 威圧。

 逆らえるはずなどなかった。

「ご・・・ごめんなさい。おかーたん、許して・・・許してえ」

 涙を流しながら許しを乞うその姿は、滑稽さえ漂わせた。

 その滑稽な姿に、悪魔を纏った満面の笑みで問いかける。

「じゃあお仕置きしようね?」

「うん。わかったのー」

「じゃあお尻ペンペンといこうか。古今東西親子のお仕置きといったらコレだよね」

「うー」

「嫌? じゃあ死ぬ? 殺してあげるよ? あんたが死ぬまでにあたしを何回殺せるかなあ? 2回? 3回? 4回殺せたら勘弁してあげてもいいけど」

 残酷な冷笑。

「・・・い、1回や2回ならともかく4回なんて無理なのー」

「だったらおとなしくしてなさい」

「・・・・・・・・・・・・」

「返事は?」

「わ、わかったのー」

「よしよし」

 そう言って一転慈悲に満ちた笑みを浮かべた夏御蜜柑は、肘掛のない椅子にまたがり、カタストロフちゃんを招く。

「さ、あたしの膝に」

 誘導する夏御蜜柑の膝に素直にうつ伏せにまたがる彼女は震えていた。

 そのまま夏御蜜柑は彼女のスカートをめくりあげ、指を鳴らした。

 恐怖。

「お、おかーたん。・・・や、やさしくして。こ、恐いよー」

「あはは、どれくらいの痛みにしようか? これくらい?」

 そう言って、夏御蜜柑が一切の慈悲なしに思い切り平手を振り下ろす。

 たしかにばしっという音がしたが、実際にはそんな音程度の威力ではない。

 敢えて形容するのなら、1トン爆弾が炸裂したような威力。

「ああああ!! ・・・・・・い、痛い・・・痛いよう・・・」

「え? この程度で? もろいねあんた」

 常人なら間違いなく死んでいる。

 嘲笑を浮かべる夏御蜜柑に、涙で慈悲を求める態度は、しかし効果はない。

「何?」

「痛いよう・・・痛いよう・・・」

「ふーん。痛いんだ?」

 冷笑。

 威圧ある冷笑。

 それに、首を何度も縦に振るその姿は、きっと微笑ましく映ったのだろう。

「じゃああと10発で許してあげる」

「じゅ・・・!!」

 爆撃のような激痛があと10?

 心が砕けそうだ。

「さあいくよう!」

 今度はばしいという音。

「いあああああああ!!」 

 泣く。

 理不尽な痛みに涙を流す。

 しかし、この暴君には逆らえなかった。

 力が、足らないから。

  そして嵐のような10発が、いつしか終わった。

「さあ終わったよ。もうお仕置きされないようにね」

「うん・・・うん・・・ぐす」

「・・・・・・・・・なーんか言うことあると思うんだけどな。気のせいかな?」

 残酷な言葉。

 残酷な冷笑。

 カタストロフちゃんは涙で、しかし思索をはべらし、そして理解した。

「お、おかーたん・・・ごめんなさい・・・・・・もうしません」

「よしよし、いい子いい子。あたしも理不尽な事してごめんね」

 そういって頭を撫でるその姿は聖母さえも超越する。

 彼女はそのままぐったりと夏御蜜柑に体を預けた。 





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