蛙は海を泳げない。
だから海を知る必要が無い。
知ったところで何も出来ず死んでしまう。
だから小さな池で幸せに過ごす。
だから井戸の中で満喫する。
真弓は起き上がった。
和信を殺し損ねたらしい。
というかやられたらしい。
全身が火傷で爛れている上に臑が痛い。
すると少し遠くから誰かが真弓に銃口を向けた。
どうやら警察の生き残りのようだ。
現場処理って大変だな・・・と他人事のように思った。
距離はざっと10m程度。
警察の眼が恐怖と殺意・・・そして悲愴に包まれている事に真弓は気付かない。
真弓はぼーっと銃口を見つめる。
分解しようか殺されようかとこれまた他人事のように考えた。
真弓を殺せば警視総監賞間違い無しだろう。
いや、二階級特進も夢じゃない。
せっかくの数少ない生存者なのだからそれくらいのご褒美は与えてしかるべきだ。
そう思って分解しなかった。
弾丸は物凄い速度で真弓を襲う。
もう、どうでもよかった。
一頻り暴れるだけ暴れたため何もかもがどうでもよくなっていた。
今や真弓にとっては自分の命など紙切れ以下になっている。
だからだろうか。
真弓の額に穴が開いたのは。
真弓が無表情で絶命したのは。
38口径のチャチな弾を放った警官はとぼとぼと壊れたように去っていった。
その後この警官は警察を辞めた。
辞表には命がゴミ以下の価値と思える自分が嫌だと書いてあった。
暗影は久美と一緒に田舎に来ていた。
「やっとついたな」
「歩いてくるんだもん、当然だよ」
電車が不通なのでバスと徒歩でたっぷり一日かけて暗影の田舎についた。
「まっ今日からここが新しい我が家だ」
「うわ〜大きいね〜」
「土地が安いからな」
暗影ははっはっはと高笑いをした。
久美は翔けるように玄関に向かい、戸を開く。
「お母ちゃん、ただいま!」
理と由奈は日本中を転々としながら布教していた。
どこにそんな金があるのか不思議である。
おそらくそんな事を聞いても「神の思し召しです」と答えるだろう。
つまり、聞くだけ無駄。
由奈はそんな一般人の心のささやきに気付くはずもなくネギカモを見つけると声をかける。
「もしもし」
屋敷家では重慶と彩音が茶を啜っていた。
「美琴も元気になってよかったですね」
「そうだな。あの液が一体なんなのか気になるが」
「和信さんが教えてくれないんですもの・・・でもま、どうでもいいじゃありませんか」
「そうだな」
どたどたと廊下を掛ける音
「じゃあおっちゃん、お母様、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
美琴はどたどたと去っていった。
和信は純と一緒にいた。
ゴーストタウンは現在復興中。
当然跋扈闊歩も営業停止だ。
「で、これが一人の既知外がやったの?」
純が呆れたように街並みを眺めながら言う。
「そう・・・だね」
「なるほど。こんな真似する人間がいるならミサイルの一つも落とすわけだ」
「はは・・・」
「で? あたしに何の用?」
純が少し疲れたように聞く。
和信はまるで空気を吸うように、ざっくばらんに言った。
「ああ、そうそう。まだ言ってなかったね。・・・見事、生還したよ」
「・・・・・・そんなこと言わなくてもわかる。でもま、ちゃんと約束を守ったお礼に・・・和信に毒を吐くのはやめてあげるね」