騎士は今夜どうするかでずっと頭を悩ませていた。
いざ奴隷ができるとどうすればいいのか検討もつかない。
しかもあまり過激な事をやると不合格になりかねない。
でも普通では騎士の歪んだ性癖は欠片も興奮してはくれない。
「ご主人様? どうしたんですか?」
夏御蜜柑が冷笑を浮かべながら近づいてくる。
どうやら、すべてお見通しのようだ。
しかし騎士はどうにも思い浮かばない。
「おい、夏御蜜柑」
「はい」
声をかけたはいいが、何も思いついていない。
縄? 鞭? 蝋燭? せっかく何でもしてくれる奴隷をゲットしたのにそんな当り障りな事して何が楽しい?
そんなのがしたいならSMクラブにでもいきやがれ。
違うんだ! まず!! 初夜は何をするべきなのか? 散歩? 悪くはないが初夜にやることじゃあない!! こんなのいつでもできる。明日やろう。いや、違うんだ!! 今夜は何をするかなんだ!! 人間椅子? うおおお、憧れの人間椅子!! 今までの女ではやらしてくれなかったし、やってもおれの65キロの体重を支えきれず5秒ともたなかった!! 夏御蜜柑ならできるだろう。しかし! それも初夜にする事じゃない!! オーノー!! 何をすればいいんだあ!? つーか違うんだ!! じゃあまず気を取り直して飯? 違う!! そんなの奴隷にやらしてどうすんじゃ!! おれが欲しかったのは奴隷であってメイドじゃねえ!!
騎士の頭蓋がバグを起こしていた。
頭から湯気が立ち上ってもおかしくないほど脳みその異常回転。
夏御蜜柑はそんな騎士の慟哭を知っていたからこそ、笑っていた。
「笑うな夏御蜜柑!!」
「す、すみません」
最初の命令がこんなのだと思うと情けなくなってくる。
夏御蜜柑はわざわざ騎士のために落ち込んだ表情を浮かべるが、今まで夏御蜜柑に出会った事の有る者達にとってはこの表情がどれだけ稀有なことなのか、これが宝くじで3億円を当てるよりも遥かに困難な事である事を、不幸にも騎士は知らなかったのだ。
騎士はそれから30分も頭を悩ませ、結局何も思いつかなかった。
「くそっ!! まずはお前の部屋を用意しないとな」
結論は、どこまでもどうでもいいものだった。
「やはり部屋は牢獄か小屋のどっちかだな、夏御蜜柑、どっちがいい?」
「それはご主人様がお決めになる事ではないのですか?」
「考えても答えがでなかったんだ。牢獄だといかにも奴隷らしくていいんだが、実は密かに小屋もペットチックでいいかなあ・・・なんて」
騎士は真意を言えば断然王道の牢獄なのだが、小屋で鎖に繋がれている夏御蜜柑を想像すると股間が破裂しそうになってしまう。
だから、どうしても決めかねていた。
「はあ、ではご主人様の両方のご意向を行いましょうか?」
「何?」
「つまり、牢獄と小屋を合体させるんです。え〜と、檻になりますね。どうですか?」
妙案だった。
でも檻だと4000円代のAVにありそうで何となく嫌だった。
しかも檻の出るAVはどういうわけかM女よりM男がよく入っていたような気がする。
夏御蜜柑は苦笑する。
「では小屋と牢獄を合体させましょう。形状は小屋ですが、入り口を牢獄にするんです。犬のハウスに近い形になりますね」
「小さすぎないか?」
「ではあたしのサイズにあわせて作りましょう」
騎士は思案する。
さっきから主導権が夏御蜜柑に移行している。
まずい、ここで主人の威厳というものを誇示しないと。
だが、そうしたくても何をするかが思い浮かばないので誇示できなかった。
「場所はどこにしますか? 地下室を作りますか? それともリビングになさいますか?」
難しい問題である。
今まで漠然と理想の奴隷とはこうあるべきだと思い描いてはいたが、実際に具体性をもって実行するとなると何と穴だらけなものか。
「ではリビングに地下室を設けましょう。ご主人様、もう少し考えてから行動しましょうね」
「うるさい!! そんなのおれの勝手だ!! さっさと作れ!!」
「す、すみません・・・余計な事を」
夏御蜜柑は再びわざわざ落ち込んだ表情を浮かべ、リビングに地下室と牢獄を創造する。
騎士はその光景が自分で墓穴を掘った直後に処刑される昔の拷問処刑に似ているなあ、と漠然と思っていた。
「これでよろしいですか?」
騎士はそれを見る。
文句の付け所の無い立派な牢獄と小屋のコラボレーションだった。
「ああ、上等だ」
「ありがとうございます」
さて、これから何をするかが例によって思いついていない。
困ったものだ。