「あはは」
そんな笑い声を発する悪魔のような存在がいた。
その名、夏御蜜柑(なつみみかん)
「レモンって栄養あるのかね?」
夏御蜜柑はそんな事をぽつりと漏らす。
「よくTVや雑誌で『レモンの60倍』とか『レモンの32倍』とかレモンがしょっちゅう比較されるけど、そんな桁違いな差額があるってことは、実はレモンの栄養なんか大した事ないってことだよねえ」
夏御蜜柑の眼前には崩れ行く男の姿があった。
この男は公衆便所を住処にしていたいわゆるホームレス。
「あはは、どうしたのかな? じゃあ答えを教えてあげようか? レモンの栄養は100gあたり54カロリー、たんぱく質0.9g、カリウム130mg、カルシウム67g、ビタミンE1.6mg、ビタミンB1、B2とも0.07mg、ビタミンCが100mg、他にもクエン酸、リモノイド、レモンポリフェノール、リモネン、シトラール、ヘスペリジン、エチレンガスが存在するよ。ちなみに漢字で書くと『檸檬』だ。あはは、といってもわからないか」
男は困惑した面持ちで崩れ落ち、失禁していた。
何故?
それは、現在夏御蜜柑が放っている殺気があまりにも桁違いだからだ。
この殺気に前にはいかなる獰猛な生物も尻尾振って逃げてしまう事だろう。
それくらい以上殺気だった。
実際男はすでに失禁、脱糞以外にもよだれ、鼻水、鼻血、涙、目ヤニ、鳥肌、皮膚の爛れ、腰砕け、精神異常、射精、さらには目の焦点さえも覚束ない。
それもこれも、すべて殺気を浴びただけで。
それほどの殺気。
そんな尋常? 否! 異常あらざる殺気を放っているこの存在、夏御蜜柑は笑う。
「ところが柿の葉、ローズヒップ、アセロラ、ゴーヤ、カムカム、ジュアール、もろみ、ブロッコリー、パセリ、ピーマン、ハスカップ(別名ドラキュラの葡萄)、椿、メキャベツ、カリフラワーなんかはレモンより栄養価が高いんだよ。あはは」
男の精神はすでに崩壊している。
それを見通しているからこそ、この凶悪なる概念、夏御蜜柑は笑うのだ。
「あはは! 死んじゃえ消えちゃえいなくなれ!!」
瞬間、男は死亡した。
「さあて邪魔者も殺したし、このお便所をあたしの城にしようかな」
夏御蜜柑はそういって、便所を改造した。
夏御蜜柑に不可能はないのだ。
何故なら、夏御蜜柑は全知全能だから。
「あはは、完成。あとは拉致するだけだね」
恐るべき悪魔、夏御蜜柑はそんな不穏当な事を呟きながら、遠くに聳え立つ学校を見つめた。
夏御蜜柑は人間ではない。
「当たり前じゃん。全知全能の人間がいてたまるかっての」
そんな邪悪な笑みを浮かべ、学校に瞬間移動した。
学校、天地県澪標市(てんちけんみおつくしし)に点在する私立高校。首都大学付属澪標高校に。