
「おかーたんおかーたん」
己が娘にくいくいと引かれながら声をかけられて、夏御蜜柑は辟易した面持ちで気だるげに返した。
「なにかな?」
その極寒とも揶揄される言葉に一瞬カタストロフちゃんは硬直したが、すぐさま笑顔を取り戻し、訪う。ある種、健気に。
「何かここにでてくるのすっっごく久しぶりな気がするのー」
「そういやそうだね」
冷たい。
あまりに冷たい。
言葉が痛いほどに冷たかった。
「・・・・・・・・・それだけ? なんかおかーたん冷たいのー」
「あのね、ずっと昔から思ってたんだけどさ、あんたあたしに甘えすぎ」
「いいじゃない。くーでたーとおかーたんはたった1人の親子なんだよー?」
「そんな親子も137億年も続けていると飽きてくるんだよ」
夏御蜜柑は疲れた笑みを浮かべながらぼーっと世界の果てを見る。
夏御蜜柑のその表情は露骨に『あんたなんか生まなきゃよかった』という表現を見事に表していた
だが、彼女からすればそんな母の態度、意思はいつものことなので問題としない。
「あーひどいのー。おかーたんが勝手に生んだくせにー。くーでたーだって好きで生まれたわけじゃないんだよー?」
「あはは。そりゃそうだ。でもね、生き物ってあたしを除けばみんなそうだよ。この世に自分の意思で生まれた生物なんか一人もいないよ」
「おかーたん生物だっけ? なんか違う気がするのー」
刹那、夏御蜜柑の表情に威圧が宿る。
地球上のあらゆる生物が凍結してしまいそうな、絶対零度の威圧感。
そんな殺人的な威圧を内包したまま、夏御蜜柑は優しく微笑んだ。
偽善的な情愛。
「・・・・・・・・・・まあ、いいじゃんそこは別に、さ?」
「うぅ・・・・・・ご、ごめんなさい・・・・・・」
わかるからこそ、彼女は即座に謝罪できる。
この恐怖には抗えないから。
夏御蜜柑は笑う。
「あはは。この臆病者」
「だって、おかーたん怒らせると恐い目にあうんだもん」
「正直な子だね。・・・・・・さて、どうしようか?」
不毛な会話に辟易したのか、夏御蜜柑から慈愛ある言葉で切り出してきた。
「どっか行く?」
「そうだね。じゃあ。『どっか』に行こうか」
ここでいうどっかの意味は、おそらく人間には理解できない。
彼女たち親子だからこそ理解できる会話。
「うわーい。久しぶりにおかーたんとお出かけなのー」
「じゃ、適当に行くよ」
「はーい」
ここは世界の一つ下。