ここは、夏。
魔法に満ちた夏。
僕は未来が欲しかっただけだったなのかもしれない。
輝かしい未来。
高尚な未来。
光あふれる未来。
でも、それを実現させることは世界が障壁となって立ちふさがる。
それに勝てなかったのだ。僕は。
僕は大それた望みなんか抱いたことはなかった。
真実のカケラなんかいらないから、世界の中で迎合したい。
ただ、それだけだったのに。
カレイドスコープのような世界から、解放されたかっただけなのに。
「死んでしまえ――」
辻彩千秋の言葉はずしりと、重く、降り注がれた。
世界に迎合できない。
弾かれる。
弾かれる。
弾かれる。
だから、どこの世界に救済があるのか理解したくなった。
少なくとも、僕に対して誰かが救済するということは、絶対にないのだから。
救済を探す旅は大変だった。
僕が一歩世界の中をシンリャクするたびに、周囲の人たちは僕の言葉に、僕の存在に、僕の魂に対して深い深い傷を負うからだ。
それゆえか、彼らは僕というとてつもない悪魔から身を守るために、井戸の中に隠れてしまった。
――救済は見えない。
社会において救済はありえないと思っていた。
傷を負ったものは永遠に怪我人のまま一生を終える。
だから人は傷をできるだけ少なくするために井戸の中で満喫する。
外は棘だ。
外にいればいるほど傷は深まるから。
だから、外に僕という悪魔が一度具現すれば、もう、誰も外に出ない。
傷が破傷風を生み、その人を殺傷してしまうだろうから。
僕という存在はそれ自体が最悪の選択肢なのだ。
だから、僕は救済が見たかった。
確かに傷は永遠に治ることはない。
人が傷ついた瞬間から死ぬまでその人は怪我人だ。
でも。
人が幸福という魔法を得たとき、その幸福は永遠にその人のものだ。
傷はなくならないように、幸福もまたなくならない。
魔法のような。
救済は、魔法のような。
傷と幸せの魔法。
世界は魔法使いの掌の上で踊っているのだ。
だから、人は傷つくことを認める。
それを、果てしない傷を多くの人に与え、僕自身も致命的な傷を負って魔法使いから聞かされた。
ならば、僕という悪魔にだって幸せの魔法が降り注ぐこともあるだろう?
あるだろう?
夏。
魔法に満ちた夏。
僕の、最後の夏。
魔法は最後の最後まで僕には降り注がなかった。
価値はなかった。
汚かった。
傷だらけだった。
周囲に見える怪我人たちが僕という悪魔を殺そうと、幸せの魔法を独り占めしようと僕に対して攻撃を開始した。
でも、見たのだ。
その怪我人たちの中に救済を。
その魔法を。
僕には最後の最後まで与えられなかったものを。
それは、美しかった。
光っていた。
煌々と灯っていた。
暖かいヒカリ。
欲しかった。
ああ、欲しかった。
あれが、欲しかった。
辻彩千秋から昔貰おうとしたら失敗して。
一人でそれを探そうとして多くの人を傷つけて。
結局僕の手には乗らなかったぼんやりと光る暖かい魔法。
僕の人生は悪魔として殺傷と攻撃に満ちたもので総括する。
そこに幸福は欠落していて、ただただ傷を与え、与えられて、それで終わりだ。
光らない。
香らない。
靡かない。
風さえ僕には遠い。
魔法はどこにもない。
欲しかった。
魔法を与えてくれないなら。
だったら、魔法使いになりたかったな。