人は死ぬ。

 死ねば無に帰すと、無神論者は唱える。

 論理的に死が無であると知っている割には、無に恐怖しない者が多いのが不思議である。

 人は、無が恐いからこそ、あの世を創ったというのに――――――

 

 

 

 著・深田あり

 

 

 

 あらかじめ言っておく。

深田ありは神道は少ししか知らない。

 キリスト教はよく知らない。

 イスラム教はもっと知らない。

 他の宗教は全く知らないと言っていい。

 と、いうわけで、このあの世帰航は、深田ありがそこそこ知っている『仏教』のあの世で行う。

 

 

 

1、仏のランク

 

 仏教の概念とは、須弥山という世界図のそこらじゅうに仏がいるのが、須弥山とは、全ての世界の総称であり、当然、冥府も含まれる。

 さて、そんな冥府の仏の前に、仏の上下関係というやつを、軽く定義しよう。

 

 1 如来

 悟りを開いた仏のこと。

 釈迦如来、阿弥陀如来、薬師如来、大日如来、毘廬遮那仏

 

 2 菩薩

 将来、如来に到達すると思われるが、現在は修行中の仏。

 弥勒菩薩、文殊菩薩、普賢菩薩、地蔵菩薩、虚空蔵菩薩、観世音菩薩、勢至菩薩、日光菩薩、月光菩薩、薬王菩薩、薬上菩薩、雲中供養菩薩、音声菩薩、妙見菩薩、般若菩薩、延命菩薩など。

 

 3 明王

 仏教の守護神

 不動明王、愛染明王、孔雀明王、大元帥明王、降三世明王、軍茶利明王、大威徳明王、金剛夜叉明王、烏枢沙摩明王など

 

 4 天

 天界に住む仏。バラモン教やヒンズー教の神様が多い。

 梵天、帝釈天、四天王、弁財天、韋駄天、大黒天、吉祥天、金剛力士、鬼子母神、歓喜天など。

 

 5 垂迹

 他宗教の神と結びついた仏。ちなみに本地垂迹説とは、仏教と神道が混合した思想。

 愛宕大権現、富士大権現、金毘羅大権現、七福神など。

 

 と、だいたいこんな感じで構築されている。

 ちなみにどうでもいいことだが、観世音菩薩とは、観音菩薩のことなのだが、この観音菩薩というやつは色んな種類の観音がいるのでとても面倒くさい。

 一番有名なのが聖観音か千手観音だと思われる。

 同様に地蔵菩薩も護讃地蔵、破勝地蔵、とげぬき地蔵などこれまた沢山いる。

 

 

 

2、三世

 

 次は、あの世の思想の前提として、仏の視界を説明する。

 基本的に仏は過去、現在、未来の全てを色んな仏が世界各地で見渡しているので逃れる術は基本的に、無い。

 で、須弥山を基本とすると如来部、曼荼羅部、天部、明王部、菩薩部、観音部、本地垂迹部にわかれ、世界中に担当する仏がいるため、これまた逃れる術は基本的に、ない。

 さあ、つまんないので2は終わりにしよう。

 

 

 

 3、あの世帰航

 

 さて、いよいよ本論である。

 人が死ぬとよくでてくる単語。

 四十九日、一周忌、三周忌など。

 無論これらには全て意味がある。

 ちなみに『十王経』と『往生要集』という経典がベース。

 では、スタート。

 

 

 

 被験者Aは死んだ。

 Aは旅行代金として六文手にし、そのまま一人旅。

 

 Aは7日間『死出の山』という山道の裾野を歩いていると、不動明王に出会い、最初の裁判が行われる。ちなみに容疑は『殺人』その裁判の結果、さらに約400km彷徨っていると、川を見つけた。(初七日、意味:三途の川に到達するまでの日数、秦広王裁判)

 

 川を六文払って渡ると、対岸には懸衣翁と懸衣嫗が待っていた。

 この2人こそ、通称『奪衣婆』で称される鬼である。

 Aはこの2人の魔の手から逃れることはできず、衣服を剥ぎ取られ、衣領樹という樹の枝にぶらさげられ、その下がり具合で生前の罪の重さを量るのだ。

 ちなみにここでの裁判長は、釈迦如来。

 ここでの罪悪とは、五戒と言って、殺生、飲酒、不倫、嘘、窃盗をしてはならないという戒律の破り具合を裁判する。(二七日、意味:初江王裁判)

 

 その後Aは死出の山を彷徨い続ける。その7日後、つまり死後21日後、文殊菩薩と出会う。

 今度は文殊菩薩が裁判官となって裁判所が開廷する。

 これが、三度目の裁判である。

 容疑は『邪淫』つまり不倫である。(三七日、意味;宋帝王裁判)

 

 その裁判は閉廷し、さらに7日山を歩く。

 すると今度の裁判所にいたのは普賢菩薩。

 今度は秤重舎というもので罪の重さを測定した。(四七日、意味:五官王裁判)

 

 4回目の裁判が閉廷し、またまた7日山を歩いてゆく。

 すると、凄く有名な仏に出会った。

 そう、閻魔である。

 閻魔は浄玻璃の鏡という凄い鏡を取り出し、Aの遺族が供養している様子を写してくれた。

 それは、笑いに満ちた歓喜の狂気か、あるいは、涙に満ちた暗黒の清浄か。

 しかしそれはあくまでもオマケ。

 本命とは、この浄玻璃の鏡はAの生前の出来事が全て映し出されたのだ。

 Aが悪魔の暴君として、悪逆無道な人生を送っていたのか、あるいは平凡で普遍的で、しかし罪悪の薄い人生を送っていたのか、長々と見せられた。(五七日、意味:閻魔王裁判)

 

 ちなみに余談だが、人生をほとんど送っていない子供が死ぬと、三途の川を渡らせてもらえず、賽の河原で石を積んで布施の行を行わなければならない。

 しかしそんなとき鬼が嬉々とした表情でその石を鉄棒で崩してしまおうとするのだが、その鬼の魔の手から救ってくれるのが閻魔。

 

 さて、閻魔で終わり? とAは一瞬思ったがしかし山はまだまだ険しい道のりだ。

 Aはまたまた7日間ひたすら歩み続けなければならなった。

 そして今までの罪を再審してくれる仏が現れた。

 それが、弥勒菩薩。(六七日、意味:変城王裁判)

 

 そして死んでから49日が経過した。

 七日おきにあった裁判の七回目。

 いよいよ最後の裁判が開廷した。

 最後の表れし裁判長は薬師如来。

 閻魔はどうやら5回目の裁判長にすぎなかったようだ。

 さて、最後の裁判長である薬師如来は言った。

「あそこに6つの世界の入り口がある。その6つが地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上へとそれぞれ通じている。お前は好きな場所を潜れ。そこがお前の来世だ」

 なんとくじ引きである。

 Aは「今までの裁判はなんだったんだ!?」と絶叫しながらも、その入り口を一つ選び、潜っていった。(七七日、これが有名な49日。泰山王裁判)

 

 さて、Aが入った世界は哀しい事に地獄だった。

 6分の1のジョーカーを引いたというか、でもよくよく考えれば六道輪廻において天上以外は全部ろくでもない世界なのだから(人間界は微妙)6分の5の確率でジョーカーと言える。

 さて、地獄に落ちたAはようやく今までの裁判を理解した。

 地獄とは、大まかに分けて8種類存在し、今までの裁判の結果によって落ちる地獄が違うのだ。

 一番軽い刑罰の地獄である等活地獄の刑期はなんと500年。

 二番目の黒縄地獄は1000年。

 三番目の衆合地獄は2000年。

 四番目の叫喚地獄は4000年。

 五番目の大叫喚地獄は8000年。

 六番目の灼熱地獄は16000年。

 七番目の大灼熱地獄は数億年。(急に数字が飛んだ)

 そして、最悪の阿鼻地獄は数千億年。

 そんな地獄に叩き落されてしまった。

 しかも余談であるが、地獄の時間の進み方は、1日の長さが人間界より32億4000万倍長いので、実際には500年どころか1兆6200億年である。

 長すぎる!

 Aは悲観に暮れた。

 

 しかし、仏にも慈悲があった。

 死んでから100日後。再審が行われることになった。

 8度目の裁判長は観音菩薩。

 Aは必死にピーチクパーチク訴えた。

 減刑を求めて。(百か日、意味:再審、平等王裁判)

 

 さて、Aは再審によって地獄は免れた。

 しかし、今度の世界は餓鬼界。

 ちなみに餓鬼界には閻魔が王様として住んでいることで有名である。

 Aは餓えていた。

 256日間餓えまくっていた。

 ちなみに餓鬼界(界は道でもよい)にいる連中は物惜しみ、嫉妬、などの貪欲なやつらばかりで、そんな連中がこれまた500年間生活しなければならない。

 ちなみにこの世界、どういうわけか地下と地上に分けられており、地上に住む少数の餓鬼共は幸せな500年を送る一方、地下に住む餓鬼共は地上にいる連中を嫉みながら500年間飢えと苦しみに苛まれるのだ。

 

 Aは256日後、つまり、死んでから1年後、またまた再審が行われた。

 日本でもここまでならある、三審。

 そこの裁判長は勢至菩薩。

 Aは何とかいい世界を目指して訴える。(一周忌、意味:都市王裁判)

 

 その世界は、夢にまで見た人間界。

 しかし、その家は家庭崩壊を起こしており、夫は会社が倒産し、株で失敗し、愛人に捨てられ精神崩壊を起こしており、妻は夫の暴力に見も心も苛まれ、子供に八つ当たりをするような、そんな家庭だった。

 まだ赤子だったAはしかし、きわめて危険な人生を送ることを余儀なくされていた。

 ちなみに、これが六道で2番目にいい世界である。

 

 さて、Aが死んでから3年後。

 なんと4回目の再審が行われる。

 これが最後の裁判。

 本当に最後の裁判。

 この裁判の結果行ける世界は最後であり、もう、戻れない。

 例えどんな世界であろうと、かつて行われた7回の裁判の結果、どんな境遇になるかは大体変わらないのだが、しかしそれでも救いはある。

 こう考えるとAはろくでもない生前を送っていたようだ。

 最後の裁判長は、阿弥陀如来。(三回忌、意味:五道輪王裁判)

 

 

 

 さて、Aは最後の裁判の結果どの世界に転生したのか。

 まあ、どの世界でもろくでもない人生であることは想像に難くない。

 

 

 

4、極楽浄土

 

 え? 極楽はどうした?

 極楽は、通常手段ではいけない。

 悟りを開き、五戒を守った者のみが行ける輪廻の輪から外れた世界。

 往生要集ではこの世の楽園とされ。

 般若心経では無とされる世界。

 通称『涅槃』『空』

 

 

 

 5、最後に

 

 さて、いままで書いたあの世帰航は、実際にあれが正しいかどうかは知らない。

 なぜなら、仏教は宗派によって思想が違うからだ。

 中には『南無阿弥陀仏』と唱えるだけで極楽に行けるという宗派も存在する。

 では、最後にそんな宗派によって教えが全然違う仏教の、日本に存在する宗派を『大まかに』一覧する。

 

 1 奈良仏教

 法相宗

 華厳宗

 律宗

 真言律宗

 

 2 天台宗

 天台宗

 天台寺門宗

 天台真盛宗

 

 3 真言宗

 高野山真言宗

 真言宗智山

 真言宗豊山

 

 4 浄土宗

 浄土宗

 浄土宗西山三(浄土真宗)

 浄土真本願寺(浄土真宗)

 真宗大谷(浄土真宗)

 真宗高田(浄土真宗)

 時宗

 融通念仏宗

 

 5 禅宗

 臨済宗

 曹洞宗

 黄檗宗

 

 6 日蓮宗

 日蓮宗

 日蓮宗不受布施

 法華宗

 日蓮正宗





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